LANCER EVO Ⅲ Overhaul
4G63 エンジンオーバーホール + トラブル事例
走行会で頑張っているお客さまのエボ3ですが、お客さまよりミッションが壊れているということで、ミッションを降ろした所、ランサーエボ1~4(前期)の定番のトラブルの、クランクシャフトがガタガタになっている状態でしたので、スラストメタルだろうということで、エンジンのオーバーホールになりました。
この車の現在までの使用状況は、新車より競技車一筋で走行距離約16万kmで、途中に1回エンジンをオーバーホールしています。約340~350馬力の仕様ですので、起こっても仕方の無いトラブルです。
まず、恐ろしい写真を紹介します。
トラブルの原因はスラストメタルと思いきや、4番シリンダーのクランクが2分割破壊していました。
もちろん4気筒エンジンの場合、4番に最も負荷がかかるのでクラックが入りやすいとはいえ,このように完全に割れている物は初めてです。
クランクのキャップです。
左から順に1,2,3,4,5とありますが、4番と5番はメタルのフェースが無い状態で、3番の一体型スラストメタルは表面のメタルが無い状態で、その分クランクも段減りしていました。
初期型メタルは当たりに問題があったが、メタル幅は現在のものの倍近く有り、このようなことがない分、よほど良かったかもしれません。
同時にクランクシャフトも専用タイプに交換しました。
このトラブルは、私達の店では、発売後間のない時期に経験してきました。対策ブロックが出たことにより、お金はかかるが、安心してオーバーホールができると思います。
このトラブルの原因は、一体型スラストメタルの不安定さ、当たり幅の不足だと思われます。セリカなどの3S-Gエンジンは分割タイプだが、同じような当たり幅であるが,問題なく使えることから、分割タイプが良いだろうと思われる。
前回はエボ7ピストンで,今回は、エボⅨのピストン・コンロッドを組み込むことになりました。
ここで、ハイクォリティパーツとの比較をしてみましょう。
左が、エボⅨ純正のピストン、ピストンピン、コンロッドです。
右が、HKS製の鍛造ピストン、ピストンピン、コンロッドです。
写真でわかるように、エボ9純正はI断面コンロッドで、HKS製はH断面です。
それぞれの重量を量ってみました。単位:グラム
ピストン | ピストンピン | コンロッド | 合計 | |
---|---|---|---|---|
エボ9純正 | 356.6 | 134.6 | 611.0 | 1102.2 |
HKS | 349.0 | 111.2 | 562.0 | 1022.2 |
差 | 80.0 |
多少のバラつきは有りますが,これだけの差があります。
HKS製は500馬力にも耐えられる仕様になっており、純正品は、一般的に短時間であっても400馬力を超えると危険です。まして、それが連続ともなるとより一層危険になります。
安いH断面コンロッドに比べ、HKS製コンロッドは手に取ると、仕上げの美しさには格別の物が有ります。20年程前にアメリカのキャリロ製のH断面コンロッドを見たときと同じ感動が有ります。
ここで、コンロッドにかかる力を計算してみました。
クランクシャフトの角速度、ピストンの加速度と重力加速度、ピストンとコンロッドのそれぞれの往復質量を求め、ランサーのエンジンにおける、エンジン回転数8000rpmの時の、上死点でコンロッドの受ける引張り力は、エボ9純正パーツを使用していて 約2089936グラム、HKS製パーツ使用時は 約2004949グラムもの強さになります。
純正とHKSパーツを使用した時のかかる力の差は 約84987グラムにもなります。
この発生する慣性力を求める計算における、それぞれの往復質量の差は、56.6グラムです。その56.6グラムの差が,慣性力では約84987グラムの差になるのです。
純正とHKS製の重さの差は80グラムだったのに対し、それぞれのコンロッドにかかる力の差は、1062倍にもなるのです。
やはり回転物には、細かな重量合わせや軽くてより強度のあるものが必要だということがわかります。
このクランクが破壊したのも、ピストン・コンロッドの往復運動をクランクで抑えるので,とてつもない力がかかったからだと思います。
クランクシャフトが弱いから、クランクシャフトを変えるのではなく、HKS製品(軽い、耐久性のある部品)を使用するなどトータル的に集中応力を考えて、パーツを交換するのが良いと思います。